Hさんの最後の笑顔…

介護の仕事に就いて7年が経とうとしている。
辛い事や楽しかった事、たくさんあります。
今も辛い時に思い出すのがHさんの事…。
心が通じた、あの日の出来事…。


今から6年前…。
私はこの介護の世界へ何も知らないまま飛び込んだ。
何故飛び込んだのだろ?
今思うと、この世界に入った理由が正直分からない…。
でも、今は介護福祉士の受験資格まで持つ様になっている。


ヘルパーの資格を持たないで就職したのは、病院での介護でした。
そこの病院は療養病棟、慢性期病棟、リハビリ病棟があった。私はそこのリハビリ療養病棟に配属された。


入院されている方々は高齢者の方…。
脳卒中後の患者様が殆どでした。(脳梗塞脳出血クモ膜下出血…等)
麻痺が有る人、四肢のいずれかが欠損の方、胃ろうを増設して栄養を取っている方…
この世界が初めての私には全てが驚くことばかりで戸惑った毎日を過ごしていました。


入職して何ヶ月か経った頃、Hさんと言う女性の患者様が入院してきました。
寝たきり、目を閉じたまま、胃ろう、反応がない…
その方はターミナルケアの方でした…。
ターミナルケア?私はこの言葉が分から無かったので、ナースに聞きました。
その返答に衝撃を受けました…。


【死を前提にしたケア】


Hさんが受けるケアプランをナース、ワーカー、ご家族と共に考えました。
そのプランの一部が…
入浴日に熱が有っても入浴をする。
入浴中にステ(ステルベン…死)っても良いとご家族の要望でした。
Hさんはお風呂好きだったようです…。
でも、看護介護する側としては、入浴中のステルベンは…事で、高熱時は全身清拭するとの事で決まりました。


そして私は、Hさんの担当となった…。


Hさんが入院してきて何ヶ月か経ったある日、私は夜勤勤務だった。
就業する前には必ず全室60床を周り、患者様1人1人に挨拶をしてきた私は、その日に限り何故かHさんを最後に挨拶した。
話しかけても語りかけても、反応が無いのは分かっている。
でも、私は出勤の度にHさんに語りかけていた。
私『Hさん、こんにちは。今日は夜勤ですよろしくお願いします』
Hさんの手を握り、話しかけていたら…
Hさんの表情が変わった。口が微かに動いている!
良く見ると…
ヨ・ロ・シ・ク…
そう言っているように見えた。そして微笑み、私の手を強く握り返した!
私は凄く嬉しかった!




バタバタと動き、やっと仮眠の時間となった夜中12時…。
休憩室で私は横になった。ウトウトとしながら暗い休憩室で体を休めていた。
仮眠時間が終わる30分前から、Hさんのモニターの音が変わり始めた。
その音が私を呼んでいるような気がした。
『寺田さん、寺田さん…』と…
どうしても気になって、病室に向かいました。
直ぐにHさんの手を取りました…。
間もなくして、ピーっと音がしてHさんは亡くなりました…。


Hさんは私の手を握ったまま『ありがとう』と口を動かし天使の様な笑顔で旅立った…